逢瀬

現実逃避と、実際にあったことからの妄想から生まれたお話\^O^/←
暇ならどうぞ(((









太陽は私の肌を容赦なく照り付けている。
昨日まではもっと、陽射しが優しかったのに、今日になって突然光が鋭くなった。
日焼け止めを持ってくるのを忘れたので、腕と、スカートから覗く膝が特にひりひりする。
それに、ローファーが熱を吸収して、足が熱い。
ああ、こんな日向で電車待つんじゃなかった。
私はそう後悔しながら、肩にかけていたカバンを足元に置き、足元を隠した。これで少しローファーが冷えてくれるだろうか。
イヤホンから流れるお気に入りの曲が、駅のアナウンスでかき消される。静かな曲だから、私はいつも、子の曲がかかるとiPodを胸ポケットから取り出し、音量を上げる。
電車のごうん、ごうん、というやかましい音と、知らない人たちの会話をかき消すには、イヤホンから流れる音楽はちょうどよかった。


静かな曲が終わり、今一番気に入っているアーティストの曲が突然流れ始めた。
よりによって激しいロックだ。耳が割れるかと思った!
私は慌ててiPodを胸ポケットから出して、音量を下げた。
ちょうどそのときだった。
『えー、まもなく、○○、△△方面、山陽線□□行きがまいります。危険ですので、黄色い線の内側へ御下がりください。』
御決まりのアナウンスが流れ、電車が目の前を通り過ぎ、私の目の前には前から2両目の電車が止まった。


―――席に座りたいがために、暑いの我慢して一番前に並んでたのよ。


電車のドアが、まるで「いらっしゃいませ。」とでも言うかのように、音もなく開いた。
今日は、何となく窓沿いの席に座ろうと思った。
これといって理由はない。
ぼふん、と勢いよく席に座り、カバンから学校の自販機で買ったアクエリアス(レモン風味)を取り出し、ふたを開けて勢いよくあおった。
窓から差し込む太陽光は、電車を待っていたときよりかはやわらかだったが、それでも私は、太陽光の熱さを強く感じた。
アクエリアスは、まだ半分以上のこっていた。





いつもは電車に乗ったら、まっさきに現代社会の教科書や、英語のノートを出して復習するのだが、今日はそんな気分ではなかった。
ipodをいじり、好きなアーティストのアルバムを選んで適当な曲を大音量で掛けた。
そしてカバンにアクエリアスを仕舞い、代わりに一昨日借りた本を取り出した。
私はカバンを膝に乗せたまま、ipodを胸ポケットにしまって、本を読み始めた。
大学生数名が、キャンパスや街で大暴れする、ドタバタコメディな話だ。
まだ4分の1ほどしか読めていないので、目はせわしなく動き、ページをめくる手はうずいていた。
その話には、コメディ要素だけでなく、恋愛系の要素も、アクション(要するに喧嘩シーン)もある。読んでいて飽きない。
私がひたすらに、本の世界で主人公達と共に街で暴れていたころ、―――次の駅に着いたようだ。ドアが音を立てて開いた。
ドアの音が想像以上に大きく、私は驚いてドアを見やった。
―――ローファーと、白と青の運動靴が立て続けに入ってきた。
私には、それが仙道高校の生徒だということが分かった。なぜってこの駅は仙道高校の最寄り駅だからだ。
あまり興味がなかったので、私は本に視線を落とした。


・・・カップルかなぁ。 


私はふと、そんなことを思った。

特に何を思ったわけでもないけど、私の目は自然と、カップルのほうへ動いていた。


息を呑んだ。
1人は知らない、知らない女子。
もう1人はよく知ってる。


「リョウ・・・?」


西崎涼輔、私の二つ上の幼馴染だった。




ipodの音量は最大に上げた。
流れている曲はベースがうるさいロック。
電車のガタンゴトン、という音を遮断できても、
向かい側のドア付近に立つ二人の会話が遮断できない。



気付かないフリをした。
私は必死で、意識を本に集中させた。
けれど、本の世界に飛び込む準備が出来たところで、さっきの二人の笑い声がイヤホンを突き抜けて聞こえ、私は元の世界に戻ってくる。
そして見てしまう。
あの二人が親しげに話をして、けらけらと笑う姿を。
そして、リョウの後姿と、何よりもう1人の女子の姿が目に入ると、私の胸が経験したこともないほどにキツク締まった。


二人が、私の視界の端で楽しそうに笑う。


イヤホン越しに、笑い声が聞こえる。聞きたくないのに、聞こえる。
聞きたくない。聞きたくない!
聞かせないでよ、リョウ。
見せないで、見せないで
そんな風に、カッコイイ笑顔を、そのひとに見せないで。



(嗚呼、憎い。あの女が、憎らしくてたまらない。


嗚呼、ねたましい。あの二人の笑顔を、我が手で引き裂いてしまおうかしら。)




胸ポケットからipodを取り出し、音量を最大にしようとしたけど、もう上がらない。
二人の声が断片的に聞こえてくる。
「・・・・・・・聞きたくない・・・・」
私は真っ黒な思考を振り払うかのごとく、頭を軽く振り、カバンに顔をうずめた。




リョウとは生まれたときからの付き合いだ。
両親の仲が良く、小さいころからよく遊んだ記憶がある。
小学生のころ、一度引っ越してこの地を離れるまで、私は彼を兄のように慕ったものだった。


―――そして中学生になって、またこの地に帰ってきたときも、私は彼を「兄」としか認識していなかった。



なのになんで。

こんなにも私の胸には、黒いものがうずいているんだろう。






『えー、○○駅ー、○○駅です。御出口は左側・・・』
電車のアナウンスでハッとした。
本はまだ手に持っていた。けれど、記憶にあるところからページが変わっていない。
どうやら意識が飛んでいたらしい。
ipodの音楽は、いつの間にか静かなバラードに変わっていた。
「んじゃー、西崎バイバイ」
「おー、バイバイ」
イヤホンを通り越して、あの二人の会話が聞こえた。
いつもは大好きなこのバラードが、大嫌いになった。
そして、仙道高校の制服をピシッと着こなした女子高生が、軽やかに電車を降りていった。
私は横目でそれを見ていた。
―――カッコイイ人だなぁ。しかも結構綺麗だったし。
あんな人、もし私が男なら惚れてるな、絶対。
わたしはしばらく、あの女子の後ろ姿を見つめていた。
(もういいもんね、アレ絶対リョウの彼女だ。)
私は再び、本に視線を戻した。
ドアが閉まって、電車はゆっくりと動き始めた。
ipodの曲は、今更激しいロックへと変わった。



話しかけようと思った。あの人がいなくなったら。
(でも、そんな勇気、私にはない。)
私の目は、ものすごいスピードで、紙の上の活字を滑っていった。
ちょうど、主人公の女の子が、憧れの先輩に告白をするシーンだった。
『「ずっと先輩の事、好きでした!」 菜月はそう言って、樹にかけよった。「ずっとずっと憧れていたんです!付き合ってください!」』
ざっとこんな風に読めた。


私には、菜月のように告白する勇気もなければ、

話しかける勇気すらない。





「よっ、涼音!」
「・・・・・リョウ?!」
いつの間にか、目の前にリョウがいた。
冷静に切り返したが、実際心の中は大荒れだ。
―――うわああ、近づいてきてるの、気がつかなかったよぉぉ!
「えっと・・・居たんだ?」
冷静を装い続け、私は本を閉じ、目の前に立っているリョウを見つめた。(あ、何か大人っぽくなってる。)
「えー、ずっといたぜー?」
リョウは私の心情など気付く訳もなく、けらけら笑いをしている。
肩からエナメルバッグを下ろし、しばらく迷った後、私の隣に座った。
私とリョウの間には、一人が座れるか座れないか位の間が空いていた。
窓から日が射して、私たち二人を照らす。
私はただ、リョウと、その向こう側のオレンジの空を見つめるだけ。


リョウがしばらくの沈黙を破るかのように、静かに口を開く。
「・・・制服」
「え?」
ああ、その声が好きだ。
少し低くて、それでいて甘い声が。
リョウの視線は優しい。
私を、大事なもののように見ている。
でも、「恋愛対象」としてではない。
「よく似合ってる。ダイエットしなくても」
「ぶっ!」
真顔で言うから、思わず噴出してしまった。
そうやって、久々の逢瀬に緊張している私をほぐそうとしてくれる、
その心遣いが好き。
大笑いしている私を見る、その奥二重の瞳が好き。
その頭をかく手が、たくましい腕が。


全てが。





それから他愛もない話をした。
高校生活はどうか、とか、リョウの進学先とか、そんなことばっかり。



『△△駅、△△駅です。御出口は・・・・』
「あ、涼音、次だったかな?」
「そーだよー」
来ないで。電車とまっちゃえ。
『信号待ちで停車します』とか、朝は大迷惑だけど今なら大歓迎だよ。
どこかで事故ったとかで、列車が遅れてしまえばいい。
もっと一緒にいたい。
一緒にいたいよ。
私の思いは届く訳もなく、電車はいつもどおり進んでいくし、リョウも変わりない。


(ああ、憎い。過ぎ行く時間が憎くて仕方がない。


ああ、辛い。思いが伝えられない。


ああ、泣きたい。心がもう壊れそうだ。)



『えー△△駅です』
「リョウっ!」
アナウンスを遮るように、私はリョウに突っかかった。
少し声が大きかったようで、周りにいる人(といっても2,3人)がこちらをちらりと見たが、今はそんなのどうでもいい。
「ん?どした涼音」
ああ、腹立つ。
リョウはいつもどおりの表情だ。
私の顔、赤くなってるの、分かってるでしょ。
なのにいつもどおりだなんて、ずるい。
勇気を出せ、私。あの本の主人公の「菜月」のように。



言わないと、きっと後悔する。




「わたしっ! ちっちゃい頃からずっと、リョウ・・・涼輔の事が好きだったの!」
いってやった。言ってやったわこのヤロウ。
きっと私の顔は、リンゴよりも苺よりも真っ赤だろう。
リョウは、相当驚いているようだ。
目をこれでもかというほどに開いている。
「・・・・涼音?それは何の冗談」「冗談じゃない!」
くそっ、リョウがこんなにニブいとは。
私はリョウのYシャツを引っ掴んで、思いっきり引き寄せた。
くれてやる、私のファーストキス。


ごちっ


勢いよすぎた。思いっきり口同士をぶつけてしまった。痛い。
リョウは少し身をよじったけど、嫌がらなかった。
それでも、リョウが離れそうだから、私は必死でワイシャツを引っ張って、リョウを捕まえていた。
触れるだけの、血の味のするキスだった。


プシューッ


ドアの開く音と共に、私はリョウから飛び退いた。
リョウは顔を赤くして、口元を片手で覆っている。
私は、カバンを手に、勢いよくイスから立ち上がった。
私も反射的に、口を片手で覆った。
「私! あ、あの彼女さんよりリョウのこと好きなんだからね!覚えといてよ!」
「あ、ちょっ、涼音!!」
それだけ叫ぶと、私はたくさんの視線を浴びていることにも、リョウが呼んでいたことにも気がつかないまま、電車を飛び降りた。
ほおが熱い。
腕が、足が、全身がカクカクする。
足に力が入らないで、途中でへたりと座り込んでしまった。


あの二人は、別れてしまうだろうか。
それはそれで、申し訳ないことをしたことになるが。


(私は後悔してない。)


私は、唇についたままの血をぺろりとなめた。
あのキスの味がした。






――――――



何か今回の話・・・
久々に恋愛だなぁー(


テストから逃げるために、書きましたとさ。
(いつかこれの続き書きます・・・←)



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